別に言うつもりじゃなかった。

「ごめんね?」

でも言ってしまったから。


これも最後だ。

あの砂糖が溶けるまでだったら。

ココロが粉々になったとか、そういう感情でもなかった。
ただ少しだけ愕然として、え、と間抜けに声を零したりもしたけど
何となくそんな気がしていた、みたいでどうにも変な空虚感に襲われた。

「桃乃が・・」

あの、桃乃が?、なんて言ったら怒られるかもしれない。
私だって女の子なんだから、やるときはやるんだからね。
言っている姿が想像できてしまって、苦笑を小さく零すしかなくなってしまった。

受話器を置いた後に残ったのはどうしようもない空虚感で。
ソファに凭れながらまだまだぎっしり詰まっている煙草の箱から一本取り出して火を付けた。
ソファが煩いくらい軋んでるような気がした。
それが耳障りで耳障りで仕方なくて、いたたまれなくなったからそのソファを思い切り拳で殴ってしまった。
余計に耳障りな音が大きくなるだけで、手にじぃんと痛みが広がった。
それが何故だか分からなく苛立って、ただ桃乃が、という理由だけでこんなになっているのも腹正しくて、
長く伸ばした髪を掻き上げた。


関係を簡潔に述べよ、と言われても別によく分からない。
ただ一緒に住んで、普通よりも少しばかり仲が良くて、・・それだけと言えばそれだけだ。
別に人生の裏街道を突っ走る覚悟でつきあっていた、という訳でもないし
そういう意味で好きか嫌いかを聞かれてもよく分からない。
・・よく分からない、けど繋がれないとか何とかかんとか、嘆いてたような気がする。
それに酷く傷付いた覚えもある。

「寂しいのか」

自分しか居ない部屋にぽつりと谺した。
そうなのかもしれない、と言おうとしてゆっくりと煙草を灰皿に押しつけた。

多分分かっている。
この後もどうせ笑って言うんだろう、お幸せに、なんて言うんだろう。
それが一番良い諦め方で、桃乃が一番怒れる言葉。
何でそんなこと言うのよ、ってあいつは怒鳴り散らすだろう。


結果がそうでもなかったからかもしれない。
一人きりになってしまった部屋は、酷く広かった。


「ああ なんだ」


そういう事なんだろう。
だから、 そういう事なんだ。

あははと声高らかに笑う・・


煙草を吸い始める前から
マニキュアを付け始める前から
知っていたことなのかもしれない。

ぐしゃぐしゃになった言葉みたいに。


この砂糖が溶けるまで
それがアナタとの時間。


「・・・飲めないよ?」


今日は特別に寂しそうに笑っていた。



end